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名古屋高等裁判所 平成7年(ラ)50号 決定 1996年2月07日

抗告人

東和観光株式会社

右代表者代表取締役

松岡茂

抗告人

松岡茂

右両名代理人弁護士

湯木邦男

谷佳代子

川上明彦

相手方

株式会社やおつ

右代表者代表取締役

関口玉子

主文

本件抗告をいずれも棄却する。

抗告費用は抗告人らの負担とする。

理由

一  本件抗告の趣旨及び理由

本件抗告の趣旨及び理由は別紙抗告状に記載のとおりである。

二  本件事案の概要

本件は、抗告人らが、相手方に対し、抗告人東和観光株式会社(以下「東和観光」という。)は相手方の発行済株式総数の二分の一にあたる四〇〇株を有する株主であり、また、抗告人松岡茂(以下「松岡」という。)は相手方の取締役であるから、それぞれ相手方の原決定別紙書類目録記載の書類(以下「本件書類」という。)の閲覧謄写を請求する権利があるところ、相手方は不当にこれを拒否しているとして、原決定「理由」一に記載のとおりの仮処分を申し立てた事案である。原決定は、抗告人らの申立てをいずれも却下した。

本件の「当事者間に争いのない事実及び容易に認定できる事実」及び「当事者の主張」は、原決定「理由」二に記載のとおりであるから、これを引用する。

三  当裁判所の判断

当裁判所も、抗告人らの申立ては、いずれも被保全権利の疎明がなく、その余の点につき判断するまでもなく理由がないというべきであるから、これを却下すべきものと判断するが、その理由は、以下のとおり付加、訂正するほか、原決定「理由」三に記載のとおりであるから、これを引用する。

1  原決定五枚目表八行目冒頭から同六枚目四行目末尾までを、以下のとおり改める。

「そして、同法二九三条の七第二号によれば、帳簿等の閲覧謄写を請求した株主が「会社ト競業ヲ為ス会社」である場合には、これを理由として会社は帳簿等の閲覧謄写を拒むことができるところ、商法の競業に関する各種規定がいずれも、会社は競業により被害を被る危険性が抽象的にせよ存在していることに鑑み、その被害を未然に防ぐために設けられていることからすれば、会社は株主が「会社と競業ヲ為ス会社」であれば、帳簿等の閲覧謄写を請求した株主の主観的意図を問わず、これを拒むことができると解するのが相当である。そして、本件において、相手方はゴルフ場経営等を目的とする会社であり、現にさくらカントリー、むらさき野カントリーを保有して経営しており、また、抗告人東和観光もゴルフ場経営等を目的とする会社で、現にひるがの高原カントリークラブを保有して経営しているから、相手方は、抗告人東和観光が同法二九三条の七第二号にいう「会社ト競業ヲ為ス会社」であることを理由に、本件申請を拒否することができるというべきである。

また仮に、同法二九三条の七第二号に該当する場合であっても、帳簿等の閲覧謄写を請求した株主の側で、これをみずからの競業に利用し、また他の競業者に利用させようとする主観的意図の不存在を立証(疎明)すれば、閲覧請求権を行使できると解するのが相当であるとしても、本件において、抗告人東和観光に右主観的意図が不存在であることを認めるに足りる疎明資料はなく、かえって、後記認定の事実、とりわけ抗告人東和観光の代表者である抗告人松岡は、相手方の会社分割を企図し、相手方の保有するゴルフ場の一方を自己の支配下に置こうと企図していることが窺われることなどからすると、抗告人東和観光に右主観的意図が存在することを疑う余地があるといわざるを得ない。したがって、右のように解するのが相当であるとしても、相手方は、抗告人東和観光の閲覧謄写請求を拒否することができるというべきである。

なお、抗告人東和観光は、本件においては、抗告人東和観光の代表者である抗告人松岡は相手方の取締役であり、かつ、抗告人東和観光が相手方株式の半数を有していることから、抗告人松岡が相手方の取締役を解任されることがないとの特段の事情があり、これは、抗告人東和観光と相手方が競業者としてではなく、共存共栄を図った結果であるから、このような事情がある場合には、抗告人東和観光には同法二九三条の七第二号の適用はないと解するべきであると主張する。しかしながら、抗告人東和観光が相手方株式の半数を有しているとしても、同法二五七条三項に定める解任訴訟などにより抗告人松岡が解任される可能性がないとはいえないから、抗告人松岡が相手方の取締役を解任されることはないと断ずることはできないし、相手方と抗告人東和観光とが仮に当初は共存共栄を図ったものとしても、現在はむしろ対立状態にあることは後記認定の事実から明らかである。したがって、抗告人東和観光の右主張は前提を欠き、採用できない。

さらに、後記認定の事実によれば、相手方が競業を理由に抗告人東和観光の本件申請を拒否することが権利の濫用にあたると認めることはできない。」

2  原決定八枚目表七行目「債権者松岡」から同八行目「提案」までを、「抗告人松岡の提出にかかる、関口を相手方の代表取締役から解任するとの議案」と改める。

3  原決定一二枚目裏四行目末尾の次に行を改めて、次のとおり加える。

「これに対し、抗告人松岡は、以上の判断は、取締役の職責遂行のための帳簿閲覧等の権利を、その取締役が実質的な株主であったことから、株主の権利への対抗手段である同法二九三条の七をもって制限するという、いわば本末転倒の判断となっており、取締役の職責遂行のための帳簿閲覧等の必要性・重要性を看過するもので、誤りである、特に本件は、取締役であり、かつ、会社の株式の半数を有する実質的株主が、帳簿閲覧等を求めるという特殊な事例であって、その帳簿閲覧の必要性・重要性は高いと主張する。しかしながら、抗告人松岡の本件申請の可否については、これが権利の濫用に当たるか否かが問題とされているのであって、同法二九三条の七の適用が問題とされているわけではないから、抗告人松岡の右主張は前提を誤るものというべきであるし、取締役であり、かつ、会社の株式の半数を有する実質株主である者が帳簿閲覧を求めている場合であっても、それが権利の濫用に当たると判断される以上、会社はこれを拒否することができるというべきであるから、いずれにせよ、抗告人松岡の右主張は採用できない。」

四  結論

よって、原決定は相当であり、本件抗告はいずれも理由がないからこれを棄却し、抗告費用を抗告人らに負担させることとして、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 渡辺剛男 裁判官 菅英昇 裁判官 筏津順子)

別紙抗告状<省略>

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